夕立と赤信号

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 8月上旬の、暑い日の昼下がり。雑誌記者の私は、取材のためS市のとある民家へと足を運んでいた。入道雲が高く浮かぶ空からはじりじりとした陽射しが降り注ぎ、向こうのアスファルトの上には陽炎がみえる。駅から十五分ほど歩き、十字路から伸びる二十メートルほどの坂を登りきったそこに、彼の家はあった。  古びたインターホンをおもむろに押す。返事は無かったが、足音が近づいてくる。引っかかりながらも開けられた引き戸から、彼はおずおずと顔を覗かせた。おでこに刻まれたしわ、やや垂れ気味の目や口角、しみが広がる頬、実年齢よりかなり老けて見えた。「どうぞ、お上がりください・・・・・・。」ぼそりと言って私を招き入れた。  畳のイグサが香るその家は、古いものの手入れが行き届いており、暑さでよれた心が、何となく落ち着くように感じられた。  通された部屋の隅では、扇風機の色つき羽がカタカタと音を立ててまわっている。小豆色の座布団に腰を下ろし、どうぞと出された、氷でキンキンに冷えた麦茶を一口啜った。  「本日は、先日電話でも申し上げた通り、十五年前の事件について取材をさせていただきます。まずは、事件のきっかけとされている、娘さんの事故についてお聞かせ願えますか。」  「ええ、はい。十五年も前のことです。はっきり覚えていないこともありますでしょうが・・・・・・。お話しいたします。」
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