夕立と赤信号

2/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 私には、五歳になったばかりの娘がいました。妻に似て本当にかわいらしくて、おしゃべりが好きな子で・・・・・・。  事件のきっかけとなった、その事故が起こったのは梅雨のある日でした。  私は保育園に娘を迎えに行き、近所のKさんから頼まれていたので、Kさんのお宅の娘さん、Aちゃんも一緒に歩いて団地の方へと向かっていました。  その日は朝の予報通り、午後を過ぎたあたりから雨が降り出し、迎えに行った頃には少し雨足が強まってきていました。娘は買ったばかりの、人気キャラクターがプリントされている傘を嬉しそうにさして、Aちゃんとおしゃべりを楽しんでいるようでした。そして、家まであと数十メートルの交差点で、信号待ちをしていました。すると、娘はくるりと私の方を振り向いて、「この傘、買ってくれてありがとう!すっっっっごく気に入った!!」って言ったんです。いや、言ったというより、言いかけました。車道に背を向けていた娘は気づかないうちに、赤信号で照らされた横断歩道に飛び出していたんです。そこに、ちょうど、大型トラックが・・・・・・。  本当に、タイミングがこんなに合うことってあるんですね。どうしてでしょうか、どうして・・・・・・。  その後のことは、覚えているような、いないような・・・・・・。覚えているのは、娘のちいさな顔に白い布が被せられているのを病院の霊安室で見た時からでしょうか。私の隣には、むせび泣く妻がいました。  とにかく後悔しました。どうして横断歩道に出ているのに気づかなかったのか。今でもそのことばかり、考えています。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!