夕立と赤信号

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 事故から一年ちょっと経った夏のことです。私はまだ現実を受けとめきることができず、毎日夕方になると保育園に娘を迎えに行っていました。もうこの世にはいない娘を。今振り返ってみると、本当におかしかったと思います。そして、妻や保育園の先生方、他の保護者の方々を困らせていました、大変申し訳ないです・・・・・・。  そしてある日、私はまた保育園に行き、娘の姿を探し求めていました。そんな時、ある女の子が目にとまりました。あの事故の日、一緒に帰っていたAちゃんです。私は、Aちゃんに、今日はおじさんと帰ろうね、Aちゃんのママに頼まれてるから、そう言って、2人で団地へと向かい始めました。先生方は、気づいていなかったようです。気づいていたら、きっと、いえ絶対引きとめていたでしょうから。  今日は何をしたの、今日の夜ごはんは何だろうね、私は、娘と話をしているような、そんな気持ちになっていました。そうしているうちに、あの交差点に差し掛かりました。信号機は、また赤でした。すると、急に激しい雨が私の体に打ちつけてきました。その瞬間、私にはあの事故の日と景色が重なって見えました。  「かわいそう・・・・・・。」  Aちゃんは、強い雨に降られながらそうつぶやきました。  「そうだね、本当にかわいそうだ・・・・・・。どうしてうちの娘が・・・・・・、どうしてAちゃんじゃなかったんだろうね・・・・・・。Aちゃんも轢かれて、娘のところに行ってあげたら、娘はきっと喜んでくれるよ、ね!!」  大型トラックが私の視界に入ってきた瞬間、私はそのちいさな背中を横断歩道へ蹴飛ばしました。  その後のことは、覚えているような、いないような・・・・・・。覚えているのは、Aちゃんのちいさな顔に白い布が被せられているのを病院の霊安室で見た時からでしょうか。  娘が轢かれた時と違っていたのは、私の隣にいたのが、むせび泣く妻ではなく、泣き叫ぶAちゃんのお母さんだったこと、後悔はしていなかったこと・・・・・・。
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