あのとき、雨が止まなければ

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その年の夏の地方大会。 準決勝の相手は何度も甲子園に出場した強豪校で、今年は特に守備力に定評がある。そして試合は、やはり1点を争う接戦となった。 0対1。 1点ビハインドで、試合は7回まで進んだ。 表の、我が校の攻撃が始まったくらいの時だった。 空が俄かに曇りだすと、しばらくして、土砂降りの雨が降り出した。 3アウトチェンジになった頃にはグラウンドに大きな水溜まりが生じ、土を入れての整備もままならないほどとなり、試合は一時中断となった。 このまま試合が再開されなければ、降雨コールド負けである。 両チームの選手と監督がベンチで硬い表情で待っている。 お互いが望んでいること、それは言うまでもなく、我々の側は「試合再開」相手は「このまま終了」である。 やがて雨の勢いはだんだんと弱まってきた。 主審は試合再開を宣言した。 すると、中断により選手の気持ちが切り替わったためかどうかは分からないが、我が校は8回に1点、さらに9回にはもう1点をあげ、見事その試合に勝利したのである。 喜びに沸くナイン。 私は青野に「やったな。次に繋がったぞ」と声をかけた。 その時である。 普段なら、そんな声かけに素直に反応するはずの青野の表情が、一瞬だけ曇った。 しかしすぐに笑顔で、はい、と答えた。 この時の青野の一瞬の表情を、私は生涯忘れることはないだろう。
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