あのとき、雨が止まなければ

私はそれ以来、事あるごとにあの準決勝の日を思い出す。

あの日、雨が降り続いていれば、青野にはまた違った人生があったのだろうか。

青野の載った新聞記事には、やはり高校時代肩を痛めたことについても触れている。

私は身体の内を襲う圧迫感をこらえつつそれを読み進め、最後の文章に差し掛かったときだった。

そこに書かれた青野の言葉を目にした私は、心の底から込み上げるものに堪えられなくなった。
まるで私に宛てたかのような言葉に、あの職員室でのやり取りが鮮明がフラッシュバックする。
しかし、もうそれは私にとって辛い記憶ではなくなった。
やはり青野は立派な大人になってくれた。自分自身だけでなく、私の気持ちさえもこうして救ってくれるなんて。

(彼の身体は決して治らないだろうけれども、人の心は、希望ある限りしっかり強くなれるものなんだな…)

私は新聞を畳み、窓の外を眺めた。
雨はすっかり止み、空は茜色になろうとしていた。

記事は、このように締め括られていた。

「青野さんは、お店を訪れる学生たちに対し、こう語ります。『僕は高校時代、ただひたすら、がむしゃらにボールを投げ続けて、結果見事に肩を壊しました。正直その時は辛かったですけど、後悔はありません。好きな野球を通じて仲間たちと思い出を作れたわけですから。でも少なくとも、僕の店にくる子には、そんな無茶はして欲しくないですね。その先に長い人生があり、多くの選択肢がある、それを無駄にしてもらいたくないので。だから、自分は大怪我したって平気だ！なんて思わないでくださいね。子どもの怪我って、指導する大人たちにとっても、すごく辛いものなんですから』」