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「桃香を支えたいって気持ちが、大人に憧れた一番の理由なんだ」
「えっ、なに」桃香が僕を振り返る。 「まさか、私に告白してるの?」
その、素直に言葉を聞き入れようとしないひょうきんな態度が、甚だありがたかった。
そうでなければ僕は臆していたことだろう。
「ああ。 僕は大人のような心強さで桃香を支えたい。 それが大人になりたい僕の全てだった」
「ち、ちょっと。 急すぎるっ! 待って心の準備ってのが」
「言ったろう、僕は子供のままだと。 つくづく我儘なんだよ。
だけどこれからは、大人に──大人らしくあれるように、自分を見つめ直す。 桃香が待っててくれるなら……返事はその時にでも」
だんだんと桃香の顔を見られなくなる僕。
数秒の沈黙の後、
「あのさ、私も一つだけ」
膨らむ緊張を一歩毎に踏み潰すような足取りで僕に近付き、桃香は小さな掌をゆっくり差し出した。
綿毛のように柔らかな風が僕らを包み込む。
「私がいつか桃の香りを感じられるまで、一緒にいてよ。 それで私は暁と……同じ色の景色を視たい」
夕陽を反射する桃香の澄んだ瞳が、いつまでも朱く、赤く、輝いていた。 多分にして、僕らの頬は桃色に染め上がっていた。
──了。
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