兇行

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「ようやくあの子が寝たばかりなの。 (やかま)しいのは勘弁して」 「十分、いや、五分だけでいい。 あいつを起こさないように気を付けるし、話が終わったらすぐに帰るからさ」 「どうせ居座るんでしょ」 「まさか。 一年で身の振る舞いは成長させてるさ」 「…………」  女は憤懣やる方ない様子で瞳に嫌悪を滲ませ、不承不承男を部屋に招いた。 が、入室の許可が下りたのは玄関口までだった。 「おいおい、俺は部屋の中で──」 「ここで、早く、用件を言ってちょうだい」 「そうカッカすんなってば。 ったく、仕方ねぇな」男は無精髭の生えた顎を撫で、「なあ、やっぱり俺と寄り戻さねぇか? 俺はお前とじゃなきゃ、やっていけない」 「あら、そう? 私はあなたと離婚できて、せいせいしてるくらいなんだけど」 「強がるなって。 俺と過ごしていた時と比べてここらは貧乏クセェ。 華やかさや彩に欠けてる。 お前も、本当は嫌なはずだろう?」  男が他人の内情を推し量るのを見て、女は鼻で笑った。
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