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「家まで送っていくから」とのことで、僕と桃香はたった四軒ばかりの距離を二人並んでゆっくり歩いていた。
雨に濡れたアスファルトが、すっかり濃さを増した夕焼けの紅に照らされている。 ぎらぎらした輝きが目に痛いくらいだった。
「……暁、今日のことはありがとう。 おかげで私、色々と精算できたような気がする」
「僕の方こそ、桃香がいてくれたから変わることができた。 ありがとう。 それと、ごめん。 真実を意図して隠すようなことして」
「ううん。 もう、いいの。 暁にも理由があったんでしょう」
そういえば、まともに理由を伝えそびれていた。
「すごくエゴなんだけどさ。 桃香の両親が桃香を愛していることは分かっていたから、残酷な真実より、せめて朱香さんらの想いを斟酌した真実を伝えたかったんだ」
「……暁、大人っぽいことするじゃん」
「とんでもない」僕は苦笑するしかなかった。 「桃香の方が大人だよ。 真実に直向きで、自分自身を見つめて、ぶつかり合って……。 片や僕は、僕が憧れる大人になれなかった。 どこまでも子供のままなんだ」
なんとなく、このまま帰ってしまうのは嫌だった。
僕が立ち止まると、桃香も自然な所作で倣った。
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