午後9時の晦月

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 高い天井に張り巡らされたパイプライン。鉄骨が剥き出しの壁。  ここは廃工場スタジオで有名な高崎金属……なわけはない。 「これ焼いちまうぞ?」  向かいに座っている雄貴さんが、生のミノが何切れか乗っかってるお皿を手に持って、私に問いかける。 「ですね。そっちのレバーそろそろいいですよ」 「おう」  おわかり頂けただろうか。  ここは、焼肉屋だ。  何を思ってこんな内装にしたのか、割と謎だ。もしかしたら、ここも廃工場なのかな。天井のパイプラインは飾りでなく、ちゃんと排煙ダクトになってるみたい。  網の上で炭になりかけてた、もうカルビだかロースだかわからない肉を拾い上げて、皿に取る。あ、コチュジャンがもうないじゃん。 「雄貴さん、コチュジャン取ってください」  雄貴さんの方にあるコチュジャンの壺を指差して頼むと、雄貴さんは笑って渡してくれる。 「結ちゃん、全部コチュジャンだが」 「そうですよ?」  雄貴さんとはもう何回も焼肉に来てる。
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