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憎しみの連鎖
妹の予想は当たった。姉妹は名目上は英雄となったが、その肩書を逆手に取り常に監視される身となった。これでは囚人と変わらない。
「どうして……どうしてこんなに不自由なの? 皆のために頑張って、わたし達は戦ったんだよ?」
「これが真実。結局人は自分に都合のいいことを受け入れる。でも、これはまだ当然。憎んではいけないの。当然なのだから」
姉の方がその状況を受け入れがたいものと感じているようだったが、妹は驚くほど冷静だった。彼女の憎悪は、このような生易しいものであってはならないのだ。
そして実際に、それ以上でもそれ以下でもない待遇が続いた。20年程だろうか。妹は全く見た目が変わっていないが、姉は相応というほどでないが歳をとっていた。その頃に、あまりにも理不尽に事件は起こる。
「おいよせ! ここにいるのは悪魔のごとき魔女を倒した英雄で……」
「うるさい、うるさいッ! 悪魔が何なんだ、過去のことじゃないか! 憎しみに囚われて師を殺した者を祀り上げるような奴より、ずっとずっと俺の方がまともだぞ!」
この時、姉妹は思い出した。しばらく主張ということを避けてきたが故に忘れていたことを。自己表現は憎悪に終始するのだと。
理不尽への憎悪が、原動力なのだと。
「まともな人なんて、ここにはいない。五十歩百歩もいいところ。それよりも、なんの為に私を殺しに来たの?」
「なんの為にって、そりゃあ……なんだっていいじゃねーかよ! 俺がしたいんだよ!」
妹は呆れて物が言えない。もはや人外となった彼女の人間に対する俯瞰的認識視点は、人間を自分勝手で愚かと見做していた。恨めしい。愚か者がこうして聞くに堪えない声を上げるのが。
そう思い、魔法を男にぶつけると、彼の体は音を立てて崩れ去った。
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