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記憶巡りの終わり
過去記憶を巡り、記録を残す旅もいよいよ終わりが近付いてきた。死してなお暴走状態にあったからか、ずっと干渉を絶たれていたボクの師匠の記憶に、これから入り込むことになる。
彼女の領域に近付くと、強い憎悪の波動がボクに襲いかかる。あまりにもそれは重かった。ボクは今はもう精神体であるはずなのに、吐き気を催すような感覚がした。精神が直接入り込んだことで、肉体という一種のフィルターを通して見ていた彼女の憎悪を、直接見せつけられているのだ。
誰かを憎むことでしか、もはや彼女は存在を維持できないのだろうか。これもまた、魔女の呪い、世界の呪いによるものなのだろう。この記憶巡りによって現世との接続も維持できており、時代の移ろいも観測できるが、彼女は「憎悪の魔女」なる名で呼ばれていた。
実際に、ボクが最後に彼女を打ち倒した時、ボクのことすら見えていないかのように……いけない。こんなことは思い出してはいけない。
この空間に飲み込まれては、ボクもまた呪いの影響を受ける。自我も本来のものになるかが怪しいくらいだ。だからこそ、現世と接続して、ダイレクトに戻れるようにしておかねばならない。受肉を意図した形で行うには、これしかないだろう。
その接続のための記録作業というものを、現在行っているのである。記録を世界に刻む媒体となることで、ボクは思った通りの形で復活し、そしてボク自身が呪いを解く足掛かり、標となる。
この標のみではある程度のところまでしか導けないが、そこからはあの人がうまくやってくれる。
この記憶巡りが有益なものであることを祈って、師の記憶の中に入り込む。その記憶の始まりは、双子の姉妹の誕生からだった。
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