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私は血だらけの指で、指折り数える。
1.2.3……4
私の目の前に重なり合う人。
人の重なり。
死体の重なり。
「ひゃああああああ!!」
右手に赤く染まるサバイバルナイフを握り、部屋中を駆け回り天手古舞。
飛び散る血液がカーペットに滴る。ナイフから流れる一滴の血が腕をなぞる様に溢れ落ちて、くすぐったい。
「一回落ち着こう」
まじまじと折り重なる赤い人を見つめる。
①1番下→彼氏
②下から2番目→元カレ
③下から3番目→不倫中の上司
④1番上→アパートの隣人
どうして、こんなにも殺してしまったのか?
頭の中をぐるぐるフル回転させ、必死で記憶を巻き戻していく。
ぐるぐる……
彼氏は今日、うちに来ていた。私がキッチンでお昼ごはんを作っていたら、ちょっとした口喧嘩になったのだ。私は憎しみを込めながら、ソーセージを切っていた。スープに入れようと思っていたのに。
「ごめん、やっぱり、好き」
背後に来た気配にびっくりして、包丁を突き立てたまま、後ろを振り向く。抱きしめようとしてくれていた彼の心臓をひと突き。
え?
スローモーションで倒れゆく彼の身体。パニックのあまり、包丁を引き抜くと目の前に降り注ぐ血の雨。とりあえず、包丁をまた戻す。
顔も手のひらも返り血でベトベト。急いで洗面台へ行くと、そこには赤い仮面をつけた私が居た。急いで蛇口を捻り、その返り血を洗い流していく。手のひら、顔、首筋。赤黒い液体がズブズブと渦を描いて流れ込んでいく。
キッチンに戻るとインターホンが鳴る。
元カレが来た。よし!助けてもらおう!
「おい!マジか!人を殺したって……お前、自首した方が罪が軽くなるんだぜ!早く連絡しよう!」
スマホを握りしめる元カレの後頭部に、花瓶を投げつける。うまい具合に1人目の被害者の上に重なり倒れる。余り出血していないのに、絶命している。一発で仕留めた様だ。
散らばった花たちを片付け、雑巾でカーペットを拭いているとまたインターホン。
今日に限って、来客が多いな。
不倫中の上司なら大人だ。きっと、一緒にどうした方がいいか考えてくれるはず。期待を胸に玄関へ向かう私。開けた途端に私を強く抱きしめてくれた。
「今日で最後にしよう。妻にバレそうなんだ」
耳元でそう囁かれる。
私は憎しみのあまり、首筋に歯を立て噛み付く。怯んだ隙に傘立てにあった傘の先で、身体を串刺し。そのまま死体を引き摺り、2人目の被害者の上に重ねる。
目の前にある人の山。
重なる男たちの死体。
赤い肉の塊が重なる。
天手古舞になりそうな頭を抱える。
どうしよう?
ドン!ドン!ドン!
「大丈夫ですか?何かすごい音しましたけど!」
ドア越しから聞こえてくる隣人の声。
今度こそ助けてもらおう!
ドアを開けると突然、口を塞がれ、隣人が後手で鍵をガチャリと閉める。
彼の右手にはサバイバルナイフ。
私は泣きべそをかきながら、首を左右に必死に振る。
「前から好きだったんだよ。僕のものになってくれない?」
私は首を縦に振る。
「え?いいの?」
彼の手が口元から離れると、私は指を思いっきり噛んだ。
「イテッ!!!」
緩んだ右手からサバイバルナイフを奪い、彼の心臓目掛けて突き刺し、背中まで貫通。
ここまで来ると感覚が慣れてくるわ。
なんちゃって。
そいつを一番上に積み上げる。
「よいしょ」
全員うつ伏せの4段積み。
1番上の刺したての被害者から滲み出た血液が、滝みたいに肉の塊のラインをなぞって流れる。その液体は1番下の体を通過して、じわじわ床に染みこんでいく。
「なんか、ホットケーキにかけたメープルシロップみたいだな」
これで全員の殺害方法を思い出せたわ。
私はその人間ホットケーキを見つめて、深い深呼吸を1回。
段々と落ち付いてきたわね。
「お腹すいちゃったわ」
私はさっき作っていたコンソメスープに刻んだソーセージを入れて温める。
そして、ホットケーキミックスと冷蔵庫から卵を出し、ボウルを用意する。
死体の山を放置したまま、ソファーでスープとメープルシロップたっぷりのホットケーキを思う存分食す。
録画していたドラマなんかを鑑賞しながら。
またインターホンが鳴る。
「マジでやんなっちゃうな、今日」
「はーい!」
「お届け物です!」
私は包丁を背中に忍ばせ、ドアノブに手を伸ばす。
そのお届け物が、1番初めの被害者からのプレゼントなんて事も知らず、私はまた人を殺める。
重複殺意は止まらない。
完
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