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それは、もうすぐ夏休みになろうかというある日のこと。
その日はクラブ活動がある日であり(ちなみに、文科系でも運動系でもなんでもいいから、全員何かしらのクラブに入るよう義務付けられている)、学校が終わるのがいつもより少しばかり遅かった。空が暗いな、と皆が思い始めたのはクラブのがもうすぐ終わろうかという時間のこと。
あっと思った瞬間、遠くで雷がごろごろと鳴り、空からは大粒の雨が降り出したのである。見事なまでの夕立だった。
「やっべーすっげー雨ー!」
「うっそおおお!」
一部の男子は何故だかはしゃぎ始め、そうでない子供達は一斉に頭を抱える始末。田舎町にあるこの学校は、遠くから徒歩で通っている生徒が少なくない。こんな酷い雨の中、突っ切って帰る度胸がある生徒は殆どいなかったことだろう。
否。今日は夕立があるかもしれない、という天気予報は一応出ていた。予め傘を持ってきていた生徒は、帰りの会が終わると同時にすぐ帰ろうとしていたようなのだが。
「傘がない!」
一人が騒ぎ始めると、すぐに他の生徒たちも“俺のもない!”とわーわーと言い始めた。そう、一部の生徒達の傘のみ、どこをどう探しても見つからない事態に陥っていたのである。私の担当するクラスでも、半数以上の生徒の傘が消失していた。折り畳み傘も、それから傘立てに指していた他の傘も、である。
もっと言えば、傘なんかなくても雨を突っ切って帰ってしまえ!という一部の元気なワルガキどもの場合は、外履きの靴も一緒になくなっていた。まるで、誰かがこの雨に乗じて、みんなをこの学校に閉じ込めようとしたかのように。
「誰かが傘盗んだんだ、きっと!クラブ活動に出なかったやつが怪しいんじゃないの!?」
クラスの女子の一人がそんなことを言い出し、全員の眼が一人の生徒に集中した。気分が悪いといって、クラブ活動だけお休みして保健室に行っていた生徒がいたことを、みんなが知っていたからである。
「…………」
樋口昴流は、黙って下を向いていた。
自分がやったとも、やっていないとも言わなかったのである。
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