傘と未来と君の愛

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 はっとしたように目を見開く少年。どうやら、ビンゴということらしい。 「あの日、傘か靴を盗まれた生徒と教師は、私を含めて五十三人もいたの。凄い数よね。はっきり言って、一人で全部盗んで隠すのはすごく大変だったと思う。いくらみんながクラブ活動をする教室に行っていて、いつもの教室がからっぽで簡単に盗めたんだとしても」  そして、彼が仮病であったらしいということは、保健室の先生からも聞いて裏付けが取れている。彼は保健室に行ってすぐ、もう気分が悪いのは治ったからとすぐ部屋を出たのだそうだ。そして、そのままクラブ活動の部屋に戻ってこなかった。明らかに、何か別のことをするために時間を使っていたのである。この状況で、昴流の犯行を疑うなというのは無理があるだろう。保健室に行くなどして、不自然にクラブ活動の時間姿を見せなかった生徒が他にはいないから尚更である。  では、彼が犯人だとして、何故傘と靴を盗んだのか。  保健室に行くフリをしてクラブ活動のをサボり、その時間を利用するという計画的な真似までして、何故。 「傘と靴を盗まれた生徒には、共通点があったの。傘を盗まれたのは……みんな、同じ地区に住んでいる人ばっかりだった。山の方に住んでる人ばっかり。靴を盗まれたのは、一部の男子。傘がなくても、夕立をつっきって家に帰っちゃいそうな悪戯小僧ばっかり」  かなり派手な夕立だった。あの折り畳み傘があっても、すぐに出るのは皆躊躇したことだろう。ましてや、その傘が盗まれているともなれば、雨脚が弱まるまで暫く学校で待とうと考えるのがごくごく自然なことだ。夕立というものが、基本的には一過性であり、ある程度時間をおけば止むことが多いと知っているなら尚更そう。  そして、傘がなくても飛び出していきそうなワルガキどもだけ、靴まで盗まれた。  つまり、あの犯人は――夕立が止むまでの時間、一部の生徒と教師を学校に足止めしたくてあのような行動を起こしたのではないか、という予想が立つのである。 「犯人は、みんなが夕立がやむまで学校にいるようにしたかったのね。……優しい子だから」  そう考える根拠は勿論ある。何故ならあの日、雨がやんでから私はものすごく遠回りをして家に帰る羽目になったのだから。  理由は簡単。一部の道が、通行止めになって通れなくなってしまったから。 「あの日、山の方の道で土砂崩れがあったんですってね。……もし、あのまま山の道を帰る子達が、夕立をつっきって家に帰ってたら……巻き込まれたかもしれない。でもあの日傘と靴が盗まれたおかげでみんな足止めされて、土砂崩れの時に道を通っていた人は誰もいなかったの」  私がそこまで語ると。ぽろり、と昴流の頬を小さな光が伝った。唇をかみしめて、何かを耐えるように震えている少年。――言葉はなくても、その表情が、何よりの真実と言っても過言ではなかった。
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