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「とんだ怪力だな」
課長がせせら笑う。
「これでパソコン打てなかったら、労災申請しますからね」
「飯を奢るから勘弁してくれ」
と、やってきたのはラーメン屋ではなく、可愛らしい雰囲気の洋食屋さん。
カウンターのみ、10席もない狭い店だった。
「おう、章ちゃんか。いらっしゃい」
長い銀髪を後ろで一つに括ったマスターとは、どうやら顔馴染みのようで。
「誰か連れてくるなんて珍しい。いつもムスっと1人で食うだけなのに」
「余計なことはいい。日替わり二つ」
「はいはい」
マスターがフライパンにバターを落とす。
目の前が厨房なので、調理が丸見えだ。出来上がる間にも1人、また1人とお客さんが訪れ、ほぼ満席となった。
「ことわっておくが、メニューは一つしかない。誰かさんみたく、違うものを頼んで取り替えっこなんて恋人ごっこが出来なくて残念だ」
ムッとして言い返しそうになったが、ちょうどプレートが二つ置かれた。
鮭のムニエルにアボカドサラダ、ナポリタンに煮込んだミートボールと、ボリューム満点でワンコインだという。
「美味しい‼︎」
汗を流した後に食べるご飯は、最高だった。これで取り替えっこできたら言うことないんだけど。
約束通り奢ってくれた課長は、マスターに一言頼むと告げてから歩き出す。車とは反対方向に__。
「代行もやってるからな。次に行くところで最後だ」
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