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ここは高級スナック。
ボックス席は、サラリーマンの集団で埋め尽くされている。
「章ちゃん、寂しかったぁー‼︎」
シナを作って甘えた声を出す女を、私は一瞬で嫌いになった。それは相手もそうなのだろうが、さすがは水商売、満面の笑顔で空いているボックスに案内する。
「今日はお仕事?」
私の顔を見比べて、そう言った。
その間にも、課長のタバコに火をつけ、水割りを作る手は休めない。
「私はウーロン茶でいいんで」
「お嬢さん、飲めないの?」
「今は飲む気分じゃないんです」
「なんだか、可愛らしいわね。はい、乾杯」
グラスを鳴らして、水割りをチビりと飲む。ママ、と呼ばれて席を立ったから、ここの店を取り仕切っているのだろう。
一回り近く上なのだろうが、お嬢さん呼ばわりされたことが腹立たしい。
それより、こんなところに連れてきた課長の了見がわからない。
あの初めて課長を見た、朝のスクランブル交差点。
課長とママが抱き合っているのを、見ていた私を、課長は覚えていた。それなのに今、なぜここに連れてきたのか?
ママが不在の間も、入れ替わり立ち替わり女の子がやってきては、課長にしなだれかかる。
これは一体、なんの罰ゲームだろう?
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