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「今さっき食べましたよね?」
さっさと降りてお店に入っていく課長を追いかける。
「ちびちび出てくると、食べた気にならない。ラーメンの一杯くらい食えるだろ」
「でも、映画の時間が__」
「お前のあらすじで、観なくてもだいたい分かった」
と、塩ラーメンの食券を買い、私を無言で見つめる。
同じの2枚買わなかったということは、恋人ごっこの選択肢を残してくれているわけで__。
私も無言で、醤油のボタンを強く押した。
カウンターに座り、ラーメンを待つ課長の横顔は、心なしかウキウキしているように見える。
映画よりラーメンか…。
おまけに、色んな段取りが崩れてしまった。とりあえず映画は諦めてパンケーキ__と言いたいところだが、さすがに続けて食べるのもあれだから、先に美術館にしようか__。
「麺が伸びるぞ」
気がつけば、目の前には醤油の香ばしい香り。
さっき食べたのに__と思いつつも、ヤケクソ気味で麺を啜ると、これがまた美味しいというね。
「けっこう美味いな」
塩ラーメンの丼をこっちによこし、課長は醤油のほうを啜る。
ごく自然な丼交換にキュンとしないこともないが。
「食べ終わったら、先に美術館に行きましょうか?」
「眠たい」
「はい?」
「腹が満たされたからな、眠たい。その前に__運動してもいいが」
う、運動?
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