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「稲垣様、わたくし課長の北島と申します。いつもご贔屓にありがとうございます」
営業スマイルで名刺を差し出す。
あらイケメンさん、なんて稲垣さんもうっとり笑顔を見上げている。
「稲垣さんのお話は、この朝倉のほうからうかがっております。なんでも、お孫さんがお生まれになるとか?__そうですか‼︎それはおめでとうございます‼︎」
大げさに喜ぶ課長に、私も手を叩くしかない。
でも気をつけて‼︎こいつは、息子さんがマンション買うの、反対してるのよ‼︎
「なんでも、男の子だとか?きっと、おばあ__いや失礼、稲垣様のことを大切にしてくれる、心の優しいお子さんに育ちますよ」
「そんな、おばあちゃんでいいんですよ。初孫なんです。もう、孫のためならなんだってしてあげたいわ」
「そうですか」
課長の目が、キラリと光った。
「ところで稲垣様、息子さんのマンションの頭金に定期を解約したいとか?お優しい‼︎すぐにでも手続きをさせて頂きたいのですが、ご購入されるのはマンションということで、いずれお孫さんとご一緒に住まわれる予定では?」
「そうね__そうなればいいけど、まだ先の話だし」
「なにを仰います。きっとお孫さんのほうから、おばあちゃんと一緒に暮らしたいっておっしゃるはず。その時に二世帯やらリフォームやらで、お金が必要になってくるはずです。それでですね、今回の頭金は貸付して頂いて、定期は満期までこのままで将来の資金に充てというのはどうでしょう?」
身振り手振りを交えて、相手の目を真っ直ぐ見つめ、
それでいてスマートな物言いに、すっかり稲垣さんは引き込まれている。
いつも叱咤激励している課長とは、別人のようだった。
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