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「先輩、遅いですよ‼︎こんな大切な日に」
私が出社するや否やすり寄ってきたのは、後輩の麻里奈。いつもなら朝礼ギリギリに駆け込んでくるくせに。
そういえば__ほとんどの社員、それも女子社員はもう出勤し終えている。
「なんか殺気が漂ってる気がしないでもないけど?」
「当たり前じゃないですか‼︎新しい課長がやってくるんですよ‼︎しかも、33歳で課長代理から課長なんて、異例の出世コース。しかも聞くところによると、超超超超超ーイケメンらしいです‼︎」
綺麗にカールされた巻き毛を揺らして、麻里奈が拳を握る。
そのくらいの勢いで仕事してほしいくらいだわ。
指導係としてはそう思わないでもないが、確かに麻里奈の言うことにも一理ある。
私たちが勤めるのは、都心の大手銀行。
地方からの転勤は栄転であり、その手腕も確かだと耳にしている。だから私としては是非、仕事の姿勢を学びたいと期待していた__。
その期待は、脆くも崩れることとなる。
__みんな、おはよう」
福田支店長が挨拶をし、早速、新しい課長を紹介する。
女子社員のハッと息を飲む音が聞こえた。
「__うそ」
私は呟いていた。
顔が歪んでいるのが分かる。
「ただいまご紹介にあずかりました、北島章吾(キタジマショウゴ)といいます。わたしがここに配属されたからには、日本で、いや世界で一番の銀行にすべく、今後みなさまと___」
挨拶が耳を流れていく。
なぜなら北島章吾とやらは、私が今朝、睨みつけたばかりの、スクランブル交差点キス男だったからだ。
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