この恋、預けます!

5/10
前へ
/197ページ
次へ
__地味だな。 課長の声が頭の中で、エンドレスリピート。 血が登るって、こういうこと言うんですね。 「顔を赤らめて照れなくていい。褒めてやしない」 「あの、ですが課長__」 「サロンは銀行の要といってもいい。お客様が抱く印象が、契約に結びつく」 「地味では契約が取れないと仰りたいんですか?」 「地味より身なりに気を遣ったほうがいいという話」 スーツの襟を合わせる。 ずいぶん、お高いスーツですこと。身なりは気を遣ってるけど、今朝は公然わいせつじゃないの‼︎ それに私だって、清潔第一に考えてるし、お客様のウケだっていいんだから。とにかく、あんたみたいな軽い奴に言われる筋合いはない‼︎ 「お言葉ですが課長、私は心と心でお客様と接しているつもりです。いくら身なりを綺麗にしたところで、お客様の気持ちを第一に___」 「金だ」 「はっ?」 「金が一番だ。ここは銀行だろう?次に数字。お客の気持ちなんて、どうでもいい。銀行を大きくすること、会社を大きくすることだけを考えろ。その会社に食べさせてもらってるんじゃないのか?」 課長は涼しい顔で言い切った。 私の今日(こんにち)までの仕事の熱意を、すべて否定するように。 だから私は__。 「無理です」 「なんだと?」 「だから無理です」 涼しい顔で言い切ってやった。 「この俺に楯突く気か?上司のこの俺に?」 一瞬、真顔で詰め寄られたが、負けてなるものか‼︎ 上司は上司でも、尊敬なんて到底できやしない。でもこんな威圧的な感じだから、誰も逆らえないんだ。 グッとにらみ合ったのち、課長が不気味に微笑む。 「それならこれまで通りでいい。その代わり、もし目に見えて成績が落ちるようなことがあったら__」 「あったら?」
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

399人が本棚に入れています
本棚に追加