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__地味だな。
課長の声が頭の中で、エンドレスリピート。
血が登るって、こういうこと言うんですね。
「顔を赤らめて照れなくていい。褒めてやしない」
「あの、ですが課長__」
「サロンは銀行の要といってもいい。お客様が抱く印象が、契約に結びつく」
「地味では契約が取れないと仰りたいんですか?」
「地味より身なりに気を遣ったほうがいいという話」
スーツの襟を合わせる。
ずいぶん、お高いスーツですこと。身なりは気を遣ってるけど、今朝は公然わいせつじゃないの‼︎
それに私だって、清潔第一に考えてるし、お客様のウケだっていいんだから。とにかく、あんたみたいな軽い奴に言われる筋合いはない‼︎
「お言葉ですが課長、私は心と心でお客様と接しているつもりです。いくら身なりを綺麗にしたところで、お客様の気持ちを第一に___」
「金だ」
「はっ?」
「金が一番だ。ここは銀行だろう?次に数字。お客の気持ちなんて、どうでもいい。銀行を大きくすること、会社を大きくすることだけを考えろ。その会社に食べさせてもらってるんじゃないのか?」
課長は涼しい顔で言い切った。
私の今日(こんにち)までの仕事の熱意を、すべて否定するように。
だから私は__。
「無理です」
「なんだと?」
「だから無理です」
涼しい顔で言い切ってやった。
「この俺に楯突く気か?上司のこの俺に?」
一瞬、真顔で詰め寄られたが、負けてなるものか‼︎
上司は上司でも、尊敬なんて到底できやしない。でもこんな威圧的な感じだから、誰も逆らえないんだ。
グッとにらみ合ったのち、課長が不気味に微笑む。
「それならこれまで通りでいい。その代わり、もし目に見えて成績が落ちるようなことがあったら__」
「あったら?」
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