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このままだと、うまく笑顔が作れない。
私は手近なドアを開け、会議室に入った__。
「あ、すみません」
先約がいた。机に突っ伏して寝ているのだろうか?
ドアを閉めようとした時、先約は顔を上げて言った。
「行かなくていい。こっちに」
上半身を起こした北島課長が手招きする。
できることなら直ぐにでもドアをバタン‼︎と閉めたいが、そこは上司だ。いくら嫌いな上司でも、だ。
「なんでしょう?」と私が側まで近づくと、おもむろに財布から千円札を取り出した。
「胃薬、買ってきてくれ」
「胃薬って__」
そういえば、顔色が悪い。新任初日のストレスか?少し気の毒に思えてきた。
「どこか体調がお悪いんですか?」
「いや、ただの二日酔い。早くしてくれ」
ぞんざいに手で追い払われ、私の手の中の夏目漱石がシワだらけになる。
あ、お金をそんな風に握り潰しちゃダメよ。腹を立てるのは、お札じゃなくて、目の前のこいつ。
課長だかなんだか知らないけど、ここは一発__。
「妬いてるのか?」
「はぁー?」
「朝の熱烈なキスを目の当たりにして、私もあんなキスがしてみたいって?」
私に__気づいてたの?
「セ、セクハラで訴えますよ‼︎」
「俺のことが好きなくせに」
自信有り気な微笑みに、なぜかグッと言葉に詰まる。
好きなわけがない。でも言い返せない自分が悔しい‼︎
再び、夏目漱石の顔が見るに耐えないほど、歪む。
「俺、欲しいものは手に入れるタチなんで」
真っ直ぐな視線に射抜かれて、動けない__。
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