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ドアの向こうから切実な声が聞こえてくる。
一度はフッたというのに、部屋まで押しかけてくるこの執念。
私は寒気を感じて、自分で自分を抱き締めた。
「なんだ、風邪か?」
課長が優しく気遣ってくれたかと思ったが__。
「体調管理も仕事のうちだ」
「アスリートじゃないんですから」
憮然と言い返す。
喜んで損したわ。あの課長だものね。そんなことより今は私のことじゃなくて__。
「麻里奈、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです‼︎早く追い返して下さい‼︎」
悲痛な声で訴える。
こんな麻里奈を見たのは初めてだ。入社当時から、いつも笑顔で明るく、ミスは多いがお客様のウケもいい。後輩として指導し、ゆくゆくはプレミアムサロンを受け継いでほしかったのに__。
「お願いだ麻里奈‼︎ここを開けてくれ‼︎」
ドアを叩いて名を呼ぶのは__福田支店長。
麻里奈の不倫相手だ。
私にとって、そして課長にとっても上司の羞恥を覗き見しているようで居た堪れない。
一体、どうしてこんなことになったかというと__。
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