11人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー、やっぱり帰られちゃったか…」
間もなくそんな声がカウンターから聞こえた。
彼女のお気に入りの店員であるユウ君だ。
学生アルバイトである。
「折角、新作ケーキの試食、用意したのに…」
「間に合わなかったね」
カウンターからはそんな声が漏れる。
彼等の手元には一口大のチョコレートケーキがあった。
「彼女、やっぱり常連なんですか?」
丁度、食事を終えたので皿を返却しつつ序に訊いてみた。
店員たちは互いの顔を見合い、何とも言えない笑みを浮かべた。
「当店で一番来てくださってるお客様です。普段は閉店前にいらしていて…」
「お名前を知らないので、夜子さんとか夕立さんと呼んでいます」
「こら、それは言わない」
綽名を告げたユウ君を透かさず顔馴染みが窘める。
彼女は店員内で有名人らしい。
「夕立さん?」
思わず私は訊ねた。
店員たちによれば、彼女は夕立の日は早めに来店するそうで、その綽名が付いたそうだ。
しかも雨が上がりそうになると、そそくさと帰ってしまうらしい。
(何だか日差しを嫌っているみたいだな…)
そう思いつつ店を後に、自動ドアを潜る。
ムワリとした熱気と刺すような西日に目を細めた。
――――シンデレラの夕立バージョン?
そんなことを想いつつ、帰路に就いた。
最初のコメントを投稿しよう!