レモンケーキ

2/2
前へ
/7ページ
次へ
「あー、やっぱり帰られちゃったか…」  間もなくそんな声がカウンターから聞こえた。  彼女のお気に入りの店員であるユウ君だ。  学生アルバイトである。 「折角、新作ケーキの試食、用意したのに…」 「間に合わなかったね」  カウンターからはそんな声が漏れる。  彼等の手元には一口大のチョコレートケーキがあった。 「彼女、やっぱり常連なんですか?」  丁度、食事を終えたので皿を返却しつつ序に訊いてみた。  店員たちは互いの顔を見合い、何とも言えない笑みを浮かべた。 「当店で一番来てくださってるお客様です。普段は閉店前にいらしていて…」 「お名前を知らないので、夜子さんとか夕立さんと呼んでいます」 「こら、それは言わない」  綽名を告げたユウ君を透かさず顔馴染みが窘める。  彼女は店員内で有名人らしい。 「夕立さん?」  思わず私は訊ねた。  店員たちによれば、彼女は夕立の日は早めに来店するそうで、その綽名が付いたそうだ。  しかも雨が上がりそうになると、そそくさと帰ってしまうらしい。 (何だか日差しを嫌っているみたいだな…)  そう思いつつ店を後に、自動ドアを潜る。  ムワリとした熱気と刺すような西日に目を細めた。  ――――シンデレラの夕立バージョン?  そんなことを想いつつ、帰路に就いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加