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とうとう屋上まで来てしまった私は、呼吸を乱して肩で息をする。
教室にも戻りづらいし、蒼とも顔が合わせづらくなってしまった。
このまま授業をサボって屋上にいるのも悪くない。
その間にこの気持ちも涙も収まるかもしれないから。
「はぁはぁ……お前な、何で逃げんだよ」
扉に視線を向ければ、息を切らした蒼の姿。
追いかけてきて何てほしくなかったのに、放っておいてくれればよかったのに。
「何で追いかけてきたの。森川さん、待ってるんじゃない。早く行ってあげなよ」
「今は森川よりお前だろ。何かあったのかよ」
優しい言葉なんてかけないで。
森川さんより私なんて言わないで。
折角押し込めようとしている感情を引きずり出さないで。
背を向けていた私の頭にぽんっと手が置かれ。
まるであやすようなその手の温もりに、私は口にしてしまう。
「蒼が好き……」
頭に置かれた手はそのままで、返事はない。
顔を上げることができなくて、私は伏せたまま言葉を続ける。
「でもね、蒼が森川さんを好きなら、私は応援――」
するよと言い終える前に、私の身体は反転させられ蒼の腕の中にいた。
これは一体どういう事なのか理解出来ず固まる私の耳に、蒼の声が届く。
耳元で囁かれた「俺も好きだ」という言葉が、私の鼓動を高鳴らせる。
抱きしめられている腕には力が込められていて離れることができず、蒼の顔が全く見えない。
「蒼は、森川さんの事が好きなんじゃなかったの?」
その言葉で私の両肩が掴まれると、バッと距離が開き「何だよそれ!」と、驚いた表情を向ける蒼。
私が、朝の蒼の言葉から好きな人がいるんじゃないかと思ったことや、その髪もその人の為なんじゃないかと思ったこと。
教室で森川さんに対してだけ髪のことを言われても嬉しそうにしていたことなどから、蒼が好きなのは森川さん何じゃないかと推測したことを説明すると蒼は私の肩から手を放し、片手で自分の頭を押さえた。
どうかしたんだろうかと見詰めていると、蒼は溜息を吐き出した後、私を真っ直ぐに見据えた。
「森川に聞いたんだ、お前がこういう男が好きだって」
そう言われて思い出したのは中学の頃。
雑誌を見ながら友達とどんな人がいいかという話をしていて、その時私が指を指した男性が、ピンクの髪に三つ編みの人だった。
その会話をしていた女子の中には森川さんもいたことを思い出し、それが蒼に伝わったんだと気付く。
確かに私はあの雑誌の中から好みの人を選んだけど、あくまで雑誌の中でのことで、そういう人がいいというわけじゃない。
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