火葬部屋

｢太田ー何処行ったー！｣

先ほどまで、太田は足組に使う鉄パイプを運んでいた。
しかし、先輩が太田を見たのは、それが最後だった。

火事が起きたのは、１ヶ月前の事。
出火した部屋にはシングルマザーの母子が住んでいて、三人共犠牲になった。
部屋の前には献花が絶えなかったが、新しく貸し出す前に、アパートは建て替えられる事となった。
太田はバイトの作業員で、真面目だったせいか、他の作業員にも好評だった。

先輩が探し回った結果、太田は例の部屋で泡を吹いて倒れているのを発見された。

出火元の部屋のドアは内側のノブが高熱で歪んだ上に握られた跡がついていた。

握ったであろう手は小さく、女性か子供の手だと云う。

太田の手には火傷の跡はなく、死因は煙を吸ったせいだと云う。