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『時を越えて』
宏基の足元に転がって来たペン。
「ゴメン! 陽奈ちゃん!」
「だいじょーぶ」
どうやら活発な女子が机の横を駆け抜けようとした際に、友人の筆箱を落としてしまったらしい。散らばった筆箱の中身を拾っている二人に、宏基は拾ったペンを持って歩み寄る。
「三倉さん。はい、これ。こっち来てた」
「あ、ありがとう」
礼を言って手を出す陽奈に返そうとしたペンを、宏基はようやくまじまじと見た。
「うわ、すげーカッコいいな!」
シルバーに青いストライプの、ずっしり重みのあるキャップ式のボールペンらしき筆記具。普通の子どもの持ち物とは明らかに違う品に、宏基は興味を惹かれた。
「……ありがと。おみやげでもらったの」
陽奈が拾った他のものと一緒に筆箱に仕舞ったペン。色違いのピンクがもう一本あるのがわかる。
五年生の五月。
一学年に二クラスしかない小学校で一、二年生時も同じクラスだったにもかかわらず、陽奈とは挨拶を交わす程度で個人的な接点はほぼなかった。
しかしそれ以降、宏基は少しずつでも陽奈と言葉を交わすことが増えて行ったのだ。
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