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一応輪には加わったものの、宏基は女子の勢いに押されて何ひとつ声を掛けられなかった。
「小野寺くん」
後ろ髪を引かれる思いで教室を出て、帰ろうと出口に向かい掛けたところを陽奈に呼び止められる。彼女も解放されてひとりになったらしい。
理由の見当もつかないまま振り返った宏基に、陽奈が右手を差し出して来た。
「これあげる。もらって。……小野寺くん、カッコいいって言ってくれたでしょ?」
手にはあのストライプのペンが握られている。
「え? え、でも──」
「これ男の子みたいだから。あたしはピンクのだけでいいし」
さらにぐっと突き出された陽奈の手を無視するわけにも行かず、宏基はペンを受け取った。
「あ、ありがとう。……えっと、これボールペン?」
「そうだよ。インク出なくなったら芯入れ替えてずっと使えるんだって。大きな文房具屋さんに行ったら替え芯売ってるからって、これくれた叔父さんが言ってた」
「そうなんだ。大事に使うよ。……三倉さん、名古屋行っても元気でね」
微かに彼女の手の温もりが残るペンをランドセルに入れて、宏基は陽奈に別れを告げた。
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