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追いかける
若草の茂る草原で、僕と彼女は一心不乱に駆け回った。
何の気負いもなく。
子供じみた無邪気さだけを盾に、何一つ僕らを隔てるものも、拒むものもなかった。
「シュン、男の子なのに私に追いつけないの?」
「ゆうかが速すぎるんでしょ!」
肩まである黒髪を向かい風に靡かせながら僕を振り向いた彼女は、向日葵みたいな笑顔を弾けさせた。
空で輝いている太陽にも負けないくらい明るい笑顔は、彼女によく似合っていた。
初夏の日差しに相応しく、ただ素直さと、無邪気さと、この世界に腐るほどあるはずのしがらみや影の一切は僕らのまわりから消え、ただそれだけが、僕とゆうかだけが世界の中心だった。
「シュン、そんなんじゃ私には追いつけないよ!」
僕は必死で彼女を追いかけた。
「待ってってば!」
追いかけた。
海みたいな水色の服の裾がはためく、彼女の背中を追いかけた。
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