息子のともだち

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どこで知ったのだろう 5歳になった息子が、コックリさんをやりたいという コックリさんなんて、今時の子供でもやるのかという驚きと、昔自分がやったときの不気味な怖さと、子供の好奇心を育ててやりたいという親心、いろんなものを天秤にかけて結果、「やってみる?」と答えた 息子は嬉しそうに、自由帳と鉛筆を持ってきた 私は、からまでを順番に書いてあげた 息子は、時々、自分の名前を構成する、を書きたがり、そういう時だけはえんぴつを渡した 「こっくりさんは10円玉を使うんだ」 といって、息子はお手伝いしたときにもらえる10円玉が入った貯金箱を持ってきた 「も書いて」と言うから右に、左にを書いた すると息子はの真ん中に、井戸の【井】のような記号を描いた 「これは何?」 と聞くと、 「これは有名なところの、アレだよ、アレ」 という 息子が言う『有名なところ』というのは、厳島神社の鳥居のことだ 前にテレビでやっていた時に、「ここは有名なところだねえ」と言ったのを、よく覚えているのだ 「神社の鳥居なんだね?」 「そう。それそれ」 息子が満足そうにうなずいた 確かに、古い記憶のなかで、自分もこんな記号を描いた気がする 「こっくりさんに何を聞きたいの?」 と聞くと、息子は「僕のともだちとお話をしたい」と言う 「お友だちなら直接お話ししたら?」 と聞くと、 「もう死んじゃったから」 と言う この子に、そんな友だちいただろうか 得体のしれない不安が頭をよぎったが、とうの息子は早くやりたくてウズウズしている 「じゃあ、お友だちを呼んでみな」 と私が言うと、息子は私にも人差し指を出すように言って、二人で10円玉の上に人差し指を置いた 「水木先生、水木先生、そこにいますか」 「え?!水木先生?!」 「そう。僕の友だち」 私は驚きながら息子の次の言葉を待った 「水木先生、また妖怪の絵を描きますか?」 私はこの指をどうしようか迷った 【はい】は嘘になるし、【いいえ】も残酷だ すると、10円玉がスススと右に動き出した 【はい】 驚いた私は思わず息子の顔を見た 息子は満面な笑みを浮かべて、自分で「あ・り・が・と・う」と10円玉を動かした それから息子が描く絵は、全部奇妙な形の生き物で、それが1年、2年経つうちに私にも分かるようになってきた 「これは、百目だね?そしてこっちはバックベアード、サザエ鬼もいるね?」 私が名前を言うと、息子はにっこりと笑い、 「水木先生は絵が上手なんだよ」 と言って、また一心不乱に絵を描き続ける あの時呼んだ息子の友だちは、今も息子と遊んでくれているようだ
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