正体見たり、枯れ尾花

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 ねえ、お願い。  心配だから病院へ行こう。  ちゃんと検査しよう。  僕は君にそう言ってすがる。  大事な君のことだから、万全にしておきたいんだ。  どんな些細なことも、放っておきたくないんだよ。  もしも、手遅れになってしまったら怖いじゃないか。  ねえ、わかって。  大事なんだ。  君だけ。  僕の人生に必要なのは、君だけ。  他には何もいらない。  君がずっといてくれればいい。  それくらい君が好き。  大好き。  愛してる。  だから、お願い。  涙ながらにかき口説いた。  プライドも外聞もかなぐり捨てた。  君が訴える不調を何とかするほうがずっと大事だ。  この手にある、あらゆる財と称賛をなげうってもいい。  君が笑って居てくれればいい。 「わかった。わかったから、泣くなよ。これじゃあ、調子悪いのがどっちか、わからないな」  君は苦笑いを浮かべて僕の髪を撫でる。  君の掌が好き。  甘い香りが好き。  君のすべてが好き。  しぶしぶ君が病院で検査を受けてその結果が出るまで、僕は途方に暮れていた。  君を失うことになったらどうしようかと思って、何も手につかなかった。  検査結果を聞いた君は、仕方ないなあというように笑って、僕に告げた。 「正体見たり、枯れ尾花、だったよ。大丈夫。心配せずにしたいようにしたらいいってさ」  秘密基地に立て籠る。  二人で、体温を分け合おう。 「よかった」 「ん?」 「やっと君を手に入れたのに、君と一緒になったのに、失うことになったらどうしようかと思った」 「大丈夫、俺はここにいる」 「うん」 「ずっといる」 「うん……ずっと、いて」 「死ぬまで一緒だ」 「ダメ」 「ダメなのか?」 「ダメ。死んでも。その先も、ずっと一緒にいて」 「欲張りだな」 「困る?」 「いいや。上等だ」  くつくつと喉の奥で君が笑い声をたてる。  僕らの家の、大きなベッドの上に、君が作った秘密基地。  材料は僕の持ち物。 「こんな風になるなんて、自分がおかしいのかと思った……」 「習性って面白いよね」 「俺を抱くのも、習性?」 「違う。意地悪しないで。愛情だよ、知っているくせに」  君の素肌は僕の手に馴染むでしょう。  かりりと喉仏を噛んだら、君は甘い声をあげて僕にしがみつく。  普段は頼りになる君が、たおやかにはかなく色っぽくなるのが僕の前だけだなんて、至福。  君が自分で自分を持て余してしまって、どうしようもなくなって泣き言を言ってくれた。  僕の匂いがするものを集めてしまうなんて、おかしいに違いないって。  だからΩの専門の病院に行った。  担当の医者はあっさりと「多分何もないと思いますけど、気になるなら検査しましょうか?」そう言って一通りの検査をしてくれた。  そして告げられたのは、なんてことのない病名。 「うん、大丈夫。それ、「PMS(月経前症候群)」ですね。βの女性体でもよくあることでね、ホルモンバランス崩れて不定愁訴や体調不良やらでてくるの。あなたの場合はΩ特有の「巣作り行動」だから。安心して集めてしたいようにしてごらんなさいな」  そして出来上がったのが、ベッドの上の秘密基地。  なんてステキな僕らの巣。  君を奪い去る何かが、君の体の中に巣食っていたらどうしようかと思った。  君は君で、自分がおかしいのかと思って不安になっていた。  なんてことない。  ヒート前の不定愁訴だってさ。  ホルモンバランス崩れてますって。  ホントに、正体見たり枯れ尾花、だ。 「動きにくくないか?」  君が僕にかわいくおねだりのポーズをとる。 「なにが?」 「狭くて、動きにくくないかな、と……」 「その分、君と密着できる」  笑いながら君の高ぶりを撫でて、僕を受け入れる大事な場所に指を這わせる。  行為の時に声をあげるのを苦手とする君は、洗濯前の僕のシャツを咥えて声を押し殺す。 「どうしたの? そんなにシャツが気に入った?」 「ち、が……」  段々を追い詰められて君が涙目になるのが愛おしい。  いつもは僕を後ろから支えるように立つでしょう? そうすると包み守られているようで、僕は安心するのだけど、今は違う。  僕は君の体をおしひらき、僕に屈服させる。 「どうしてほしいか、ちゃんと教えてね? 我慢しちゃあだめだよ? ほら、どうしてほしい? 聞かせて?」 「さわ……て。いっぱい……」 「ここ? いやらしいくらいに、濡れてるね」 「ちがう……中……なか、いっぱい……」 「ちゃんと教えてくれて、ありがとう。大好きだよ」 「……はっぁ……あ……」  今回は枯れ尾花だったけど、僕は気がついてしまった。  君が好きだ。  本当に君が好きだ。  だから、もう、本気で求めていいよね。  本能に従って、いいよね。 「ねえ……」 「あっ…ああ…な、に……?」  甘い甘い君の声。  今僕が何を言っても、君はうなずくことしかしないだろう。  わかっていて僕は問いかける。 「本気で、セックスしていい?」  君が壊れるくらい求めて求めて求めつくして、食らい尽くして、いい?  君を失うかもしれない怖さを、忘れるくらい。  本能に従えば、いつも守られている僕がαで、君はΩ。  君は僕の唯一。  運命にだって逆らってみせよう。  枯れ尾花にだって渡さない。  君が好き。 <end>
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