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<1・始まりと謎の聲>
泣き叫んだ声が、今も喉の奥にこびり付いて離れずにいる。
目の前で吹き上がる鮮血、喰われる大切な人。
お願いだから逃げて、と願われた瞬間。自分はあの人を捨てて逃げ出してしまった。それがあの人の望みであったとしても、あの人を本当に助けたいと願うのならば――立ち向かうしか、方法はなかったはずなのに。
それで結局自分も喰われるなんて、間抜け以外の何者でもない。
馬鹿で、愚かで、情けない一人の女。その人生は、あまりにも凄惨な形で幕を下ろした――はずだったのに。
「……う、うう……」
頭がガンガンと痛む。一体何がどうしてどうなっているんだろう。そう思いながら、大地カンナは顔を上げた。
どうやら自分は、椅子に座っているらしい。結構座り心地のいい、ふかふかクッションの赤い椅子だ。だがそれ以上にぎょっとさせられたのは、自分が見覚えのない赤いドレスを着せられているということである。
「な、何だこれ!?」
思わず叫んで、さらに驚かされることになった。自分の声が、随分と聞き覚えのないもののように感じたからである。おかしい、確かに女性の声ではあるが、自分の声はもう少し高かったのではないだろうか。どこか中性的に近い、女性の声。よくよく観察してみれば、己の体型も以前とは違っているような気がする。
不意に己の腕を持ち上げて、気づいた。小学校の時に転んでできた大きな傷。傷跡が残ったままになっていたはずのそれが、綺麗さっぱりなくなっているではないか。
――何が、どうなってるの?私は、一体……。
そうだ、と。カンナは思い出す。自分は確か、いつも通り家で幼馴染とお喋りをしていたはずである。大好きな人狼ゲーム仲間で、ひっそりとカンナが片思いをしていた少年――朝海絆。人狼ゲームにハマって数年、ずっと彼とは同じオンラインで対戦をしたり共闘をしたり、新しい戦術を話し合ったりということを繰り返していた。想いを伝えるきっかけを完全に逸して、完全に異性の友達という関係で定着してしまっていたが。
――そう、今日も、絆と一緒にお喋りしてた。自分の家の、二階。自分の部屋。飲み物取ってくるよって、絆が一階にお利用とした時に、窓から……。
そう、窓が突然暗くなって。
アレが襲ってきたのだ。そして。
『立て、訳がわからないが、立つしかないだろ!逃げろっ!』
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