<1・始まりと謎の聲>

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 ***  汝は人狼なりや?というゲームを知っているだろうか。  それは、ある村に人の姿を纏った狼、人狼が迷い込むことから始まるという設定だ。  人狼は毎晩一人ずつ、村人を喰い殺していく。人狼の数は少ないが、もし村人と同じ人数まで減ってしまったら無力な人間に抵抗する術はない。だが、昼間の人狼は人間そっくりに化けているせいで、誰が人狼なのかを見分けることは難しい。  そこで、村人達は協議を重ね、狼である可能性が高いと踏んだ人間を昼間に一人ずつ処刑していくことにしたのである。  彼らの助けになるのは、毎晩一人を占って狼かそうではないかを見極めることができる占い師。  そして、昨日処刑した人間が狼かそうでなかったかを知る術を持っている霊能者などである。  参加者は村人陣営と人狼陣営に分かれて勝敗を争うことになる。時には、ここに狐陣営や恋人陣営といった新たな陣営も加わることになるだろう。  能力者の能力と、村人の推理で敵を見つけ出して処刑し、勝利に導く。それが、汝は人狼なりや?というスリリングなゲームの概要だ。 『す、すごい……そこ狼だなんて思ってもいなかった!もってりあさんほんとすごーい!!』  そもそもカンナが人狼オタクと呼ばれるほどのめりこむきっかけとなったのは、小学生当時人狼ゲームのリプレイを収録した動画が、ヨウチューブで大流行していたからに他ならない。人気ヨウチューバー達を集めた人狼ゲーム大会とその実況。誰が狼で、誰が本物の占い師か。誰を吊れば、村を勝利に導けるのか。狐は?恋人は?猫又は?  謎が謎を呼び、予想もしなかった展開の連続。脳髄を痺れさせる刺激的な頭脳戦に、カンナもまた魅了された一人であったのだ。  とはいえ、カンナはあくまで“人狼ゲームが大好きなオタク”であって、実際に自分がプレイするともなればなかなか良い戦績を上げることはできなかったわけだが。なんといっても、自分の本心や立場を隠して芝居をすることが下手すぎたのである。  まだWEBで行うネット人狼ならなんとか、と思ってそこから始めたのだが。同じく人狼ゲームに熱中していた幼馴染の絆には、対戦するごとにコテンパンにやられるばかりの状況だった。そう、高校生になり、一緒に戦略を勉強するようになった今でもそれは同じである。  いつも物静かな絆が、ゲームが始まるとなると饒舌になり、ピンポイントで弱点をつく論戦を展開する。人狼ゲームにおいて、まさに無敗の帝王というべき存在が、幼馴染にして片思いの相手である絆なのだった。 ――そう、あの日もいつもみたいに。先日やった人狼ゲームの反省会をしてたんだっけ。
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