<1・始まりと謎の聲>

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 人狼ナイトターミナルで行われた、11A村。村人五人、狼二人、占い師一人、霊能者一人、狂人一人、狩人一人――十一人編成で行われるこの配役は、人外が三匹、狐も存在しないため非常にシンプルで初心者向きの配役であると言われている。  同時に、シンプルであるがゆえに戦略が限定され、玄人でも楽しめると評判の配役だ。初心にかえって戦術を学び直す意味でも重宝するため、人狼ゲームに既に何度も経験しているカンナも頻繁に参加しているのである。この日の前日も、夜まで11A村を遊び倒していた。少々夜遅くになりすぎてしまったため、最後の試合の反省会は翌日に回すことになったのだ。  最後の試合。カンナは狂人として、人狼陣営を勝利に導いたはいいのだが――反省点が、ないわけではないのだった。その最たるところが、二匹しかいないはずの人狼のうちの一匹に誤爆したことである。  狂人は占われると人間と判定され、霊能者の結果でも人間であると評価される存在。しかし、人狼に心酔し、人狼陣営を勝利に導くことで自分も勝利する特別な存在でもある。狂人の役目はご主人様が生き残るまで盾となること。そして、村人達を攪乱し、誰が狼なのかわからないようにすることである。  最もわかりやすい役目が、偽物の占い師を演じることだ。  占い師が人狼を見つけてしまうと、ご主人様が吊られてしまうことになる。狂人としてカンナは占い師を騙り適当な結果を出し、本物の占い師の結果が信じられないように村人達を誘導することによって村を敗北に導いたのだが。  狂人最大の悩みどころは、ご主人様である狼が誰なのか狂人には一切知らされないということ。  カンナはよりにもよって、潜伏していたご主人様を偽占いし、狼判定を出してしまったのである。 『確かに、最終的に勝てたとはいえ、反省するべき点はだっただろうな』  パソコンでログを出しつつ、紙とペンを用意して絆は言った。 『まあ、自分でも分かっているだろうさ。……反省会、始めようか?』  男の子にしては少し高くて、優しい絆の声が好きだった。あまり表情が変わらない彼が、それでも自分に対してはちょっとした気遣いを向けてくれるところも。困っている人をほっとけないところも影の負けず嫌いであるところも――女の子みたいに繊細で綺麗な顔なのに、時々すごく男らしく勝気な目を見せてくれるところも、たまらなく好きだったのである。  あの日も、いつもと同じ、ささやかな日常が続くとばかり思っていたのだ。  本当に何故、あんなことになってしまったのだろう。  自分は彼とそうやって、すぐ近くで語り合って、楽しい時間を共有することができれば――それで充分幸せだったというのに。
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