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「っ…!」
思わず息を飲んだ。
その人は、セミロングの黒髪を纏い、眉を下げて空を不安そうに見上げていた。それだけじゃない。他の奴とは何かが違った。儚さがあった。目を離した隙に、この雨にでも拐われてしまいそうな、そんなのだ。
そんな彼女が、この世界のどんなものより、綺麗に思えた。
「えっと…私に何か?」
「え?」
初めて彼女と視線が交わる。穢れなんて一切知らない純粋無垢な焦げ茶の瞳が、困惑の色を滲ませていた。
「さっきから、とても視線をかんじたもので…」
「あっ、すみません。」
どうしていいか分からず右手を首に持っていってしまう。情けない。
どうやら、彼女に思った以上に魅入っていたみたいだった。
「フフッ。雨、やみませんね。」
少し笑って、彼女は再び視線を空に戻した。
ここで気の利いた一言でも返せれば、良いのだがそんなの持ち合わせていなかった。
そんな自分に呆れながら、俺もそれにつられて視線を戻す。空は隣にいる彼女とは対照的に、どんよりと濁っていた。
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