Evening rain

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彼女が行ってしまう。彼女の声が聞こえなくなっていく。 どうにか、とめなきゃ。ああ、どうすればいい。 とりあえず、なんでもいいから、引き止めなきゃ。 「あっ、あのっ!!」 「ん?」 屋根の下から出たところで声をかけたので、彼女が振り向く。 再び、純粋無垢な焦げ茶の瞳と視線が交わる。 「その、おれっ。えと、」 次の言葉が浮かばない。頭の片隅では彼女はやっぱり綺麗だなんて思っている癖に。 それにさっきから、心臓が異常な程に踊っている。 唇は動くのに、声が出ない。目の前の彼女は、待ってくれているじゃないか。 「フフッ。明日も雨、降るかもしれませんね。」 俺があたふたしている間に、彼女はそんな言葉を残して去っていった。 彼女が雨宿りしていた所を見ると、何か落ちていた。 拾いあげてみると、可愛らしいハリネズミのキャラクターが描かれたシャーペンだった。
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