相合傘

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相合傘

 顧客からクレームが入った為、今日は休日出勤で対応している。いつもなら休みの日まで仕事なんて馬鹿らしいと思ってしまうが、今回だけは違った。 「鈴村先輩、クレーム内容の詳細を纏めました。確認して頂けますか?」  声を掛けてきたのは後輩の雨沢光里(あまさわひかり)。目立った業績は残せていないが、受けた仕事は何でも卒なくこなす大事な社員だ。几帳面で気遣いもでき、何より笑顔が犯罪レベルで可愛い。 「ありがとう。確認して是正資料を作るから、雨沢さんはお客様のフォローを頼む」 「了解です。あっ、お昼ご飯は先輩の奢りですからね」 「分かってるよ。夕方には帰れるように頑張ろう」  会社には俺と光里の二人っきり。こんな幸せな状況で仕事ができるなら休日出勤万々歳だ。クレームを入れた客に感謝さえしたくなる。そして、このチャンスを活かすべく計画を立てた。今日の天気は晴れのち曇り、ところにより一時雨。夕方の降水確率は四十パーセント。以上を踏まえた作戦名は『相合傘で急接近』。  先ずは夕方までにクレーム対応を終える。会社を出ようとしたところで突然の夕立。俺は鞄の中に折り畳み傘が入っていることを思い出し、自然な流れで光里を駅まで送る……完璧だ。この素晴らしい『恋の方程式』を立てた、昨夜の自分を褒めてやりたい。ただ、本当に雨が降るのだろうかという不安は残る。そこは神に祈るしかない。少しずつ怪しくなる雲行きに心を躍らせていると、帰るタイミングでポツポツ雨が降り出す。光里はまだ気づいていない。俺は小さくガッツポーズをして、光里と一緒に会社のオフィスを出た。
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