相合傘

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「降り出しちゃいましたね」 「朝は良い天気だったのにな。そうだ、鞄の奥に……」  さりげなく折り畳み傘を出そうとした手が止まる。 「天気予報をチェックしておいて良かった。では、お疲れさまでした」  光里は自分で用意していた折り畳み傘を使い、一人で帰ってしまった。よく考えてみれば、几帳面な光里が天気予報をチェックするのは当たり前な気がする。傘に入れてくれと言えば良かったのだろうか? いや、そんな情けないことはできない。それに、もし嫌な顔をされたら立ち直れなくなる。 オフィスの入り口に戻って呆然と立ち尽くし、俺の心のように灰色な空を見つめ「光里……」と呟く。すると、どこからか声が聞こえた。 「何でしょうか?」 「えっ?」  驚いて視線を落とすと、小柄なお婆さんが俺を見上げている。 「あなたは?」 「都築光(つづきひかり)と申します」  光里と呟いたことで、光という見知らぬお婆さんを呼び込んでしまったのか? 「申し訳御座いません。光里というのは同僚でして……」 「ああ、そうでしたか。失礼ですが、ここで雨宿りさせて貰えませんか? 散歩に出た夫を探していたのですが、急に雨が降り出してしまったので」  どうやら、お婆さんは雨宿りできそうな場所を見つけ飛び込んできただけらしい。 「構いませんよ」  さっさと帰れば良かった。オフィスの入り口にお婆さんだけを残す訳にもいかず、ただ時間だけが過ぎて行く。折り畳み傘を使って家まで送り届けようか? いや、駄目だ。お婆さんは夫を探していると言った。素直に帰るとは思えない。
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