約束は遠い夏の日

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 目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。    それに周りからはやけに無機質な機械音がするし、苦手な消毒液の匂いに包まれている。  あぁ、そうか。病院に運ばれたのか。  よかった、と安堵していると横から聞き覚えのある高くて綺麗な声がした。 「目が覚めた?いつきちゃん」  驚きのあまり飛び起きる。どうしてあの少女がここに付いてきているのだろう。迷子…?ならはやく警察を呼ばないと。   私はすぐに荷物を探した。携帯を見つけるために。  幸い荷物は近くの小さな棚の上に置かれていてすぐに見つかった。  でも、携帯を取り出して警察に連絡することは叶わなかった。  少女が背後で「いつきちゃん、どうしたの?」「いつきちゃん!いつきちゃん!」と騒ぐ際で看護師さんに見つかり、その後すぐにお医者さんも来てお説教が始まったからだ。  やはり、私は熱中症だったようだ。  でも、私が思てっいたよりも症状は軽かったようで点滴を受けきったら帰れることになった。  バイトも休みになって今日の予定はなくなったから急ぐ必要もなくなった。  …でも、未だに病室には1つ急ぎ解決したい課題が残っていた。 「私、あなたみたいな親戚がいた覚えはないんですけど…」  先程来た看護師さんに説明をしてこの眼の前の少女を押し付けようと思ったのだが、看護師さんは彼女が私の親戚だと言う。証明もしたらしい。でも、私に彼女との面識はない。 「うん、私はいつきちゃんと血は繋がってないからね。親戚じゃないよ!」  少女はニコニコとしながら私の言葉を肯定した。明らかに不審で、恐ろしかった。 「じゃあ、あなたは誰なんですか」 「私はね!いつきちゃんのお友達だよ!」 「友達って…いつの…?」 「えっとね…いつきちゃんが5歳の時から〜3年ぐらい?」  さらに不審な答えだった。目の前の少女は見るからに10歳にいっているかどうか…。私が5歳の時だなんて…15年前の話なのに…。それに、友達が極端に少ない私が友達のことを忘れるということはまずないのではないだろうか…。 「ねえ、いつきちゃん!私、世界を壊せるようになったよ!きっとどんな方法でもできるよ!いつきちゃんはどんな方法がいい?」  顔から血の気が引き、呆然としている私を気にすることなく少女はまた私にとんでもない提案を持ち出してくる。 「そんな…別に…」  落ち着いて考えればそれは少女の嘘なのだろう。しかし、その時の私には冷静に物事を考えれるだけの気力がなく、ただただ怯えることしかできなかった。 「ちょっと待て、アン」  そんな私に助け舟を出したのは1つ目で、クラゲとコウモリを足して割ったような…不定形な浮遊生物だった。 「こいつ様子おかしくないか?本当にお前が言ってた゛いつきちゃん゛か?」 「…そうだよ?いつきちゃんだよ?」 「ならなんでこんなに怯えてるんだ、お前との約束も覚えていないみたいだし」 「…そんなことないよ!!」  浮遊生物はそのファンシーな見た目とは裏腹に、客観的でとても冷静だった。  そんな浮遊生物が私には神様のように見えて、藁にもすがる思いで頷き続けていた。  それに、実際に私は彼女との約束なんて知らない。  激昂している彼女を見るに相当大切な約束だったのだろうけれど…何度思い出そうとしても私の脳内にそんな記憶はないとしか思えない。 「あーあー…、アン、そう怒るんじゃない。もしかすると人間は私達とは作りが違うんだから単に約束のことを忘れてるだけかもしれないだろう」 「…」 「でもな、光らないんだよどこも、一切。だから一度出直そう。」  浮遊生物のその一言を聞いた少女は呆然とした表情で私を見つめていた。  彼女の瞳には私の姿が写っていたが、どこか遠くを見つめているように見えた。  そして口を小さく動かし、おぼつかない足取りで私のそばまで来ると私の入院着のそでをつかんだままぽろり、ぽろりと涙を流した。
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