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「結論から言うと君の記憶は一部消えているね」
薄暗い洞窟の奥、周りの風景に見合わぬ調度品に囲まれた空洞の中で私達はソファーに腰を掛け向かい合っていた。
「いや、消えているという表現は間違っているな。…魔法、呪術、封印…。そうだね、うん、封印されているという表現が近いかな。君とアンが友人であったという証言は事実だ。けれど何者かが君にそのことを思い出せないようにするための妨害魔法をかけているようだね。」
「じゃあ、それは誰の犯行なんですか」
私はたしかに人に好かれやすい人物ではない。でも、流石に…そんなことをされるほどの恨みをかった覚えはないはずだ。
「残念だけど今の私にはそこまでのことは分からないんだ、アンに力を座れているからね」
「…そう、ですか」
「まあまあ、落ち込まないで。解除方法ならもう少し頑張れば掴めそうだから今の課題の根本的解決には至れるさ」
目の前の女性は肩をすくめながら笑った。
犯人の正体が明らかにできなかったことは少し不安だが、今の少女に対する問題を解決する事ができる糸口が見つかったことで私の心は少し軽くなった。
「だからまあ、後の分析は私に任せていつきちゃんは向こうに帰ってアンの様子を見ていてくれるかな。そろそろアンが起きて機嫌が悪くなっていることだろうし、何よりも君がここに長時間いたら危険だからね」
女性はそう言うのと共に軽く指を鳴らした。
すると、女性の後ろにあの浮遊生物の口の中と同じ暗い亜空間への入り口が開いた。
「あ、ありがとうございます。えっと…」
「エリザでいいよ、いつきちゃん」
「エリザさん、本当に…ありがとうございます」
この空間に来てからこころなしか身も、心も少しずつ蝕まれているような感覚を覚えていた私は彼女の言葉にすぐに従う事にした。
「それじゃあまた後で」と手を振る彼女にお辞儀をしてから、次は自ら亜空間に足を踏み込んだ。
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