約束は遠い夏の日

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 見慣れたいつもの風景、私の部屋の廊下に戻ってくると少女が不安げに駆け寄ってきた。しかし、その少女の傍らにいつも存在していた浮遊生物の姿はなかった。 「いつきちゃん…!?この瘴気…魔界に行ってたの?駄目だよ!危ないよ!」 「ご、ごめん。エリザさんに診てもらいに行ってて」 「エリザに?あの人すごい女の子好きのタラシで危険なんだよ!大丈夫?何もされてない?」  その言葉にふと、一度目の亜空間突入時の出来事が脳裏をよぎった。しかし目の前の少女に伝えると大変なことになる予感がしたので「大丈夫だったよ」となだめることにした。 「そういえば…どうしてアン…ちゃん?は世界を壊したいの?」  アン?と私が友人であるという事実は一様認めるとして、これが現在残った一番の謎だった。 「いつきちゃんがね!世界を壊してほしいってお願いしたからだよ!そのためにすごく頑張ったんだよ!」 「…どうして私は世界を壊してほしいって願ったの?」 「…それは」  少女の顔が途端に曇ってしまった。もしかすると過去の私にはとんでもない出来事があったのだろうか…。 「…やっぱり、いつきちゃん昔のこと思い出せないの?」 「思い出せないというか…エリザさんが言うには記憶を封印されているんだって」 「ふういん…?」  アンは眉間にシワを寄せながら首を傾げた。やはり、少女の姿をした彼女には難しかっただろうか。  「ふういん、ふういん…」その後もしばらくアンはその言葉を繰り返しながら考え込んでいた。  私にとってエリザという緩衝材がいない今、アンが大人しくしていてくれることはとても好都合だ。このまま冷蔵庫にあるプリンでも出してしばらく動けないようにしておこう。  そう思って立ち上がった瞬間、私の計画は瓦解した。少女が突然騒ぎ出したのだ。 「エリザ、エリザ!!出てきて!!お願い!!」  アンは虚空に向かってドアをノックするかのような素振りを見せた。コンコンコン、コンコンコン。何もないはずのそこからは少女の小さな拳が振り下ろされるたびに軽やかな音がした。 「なんだなんだ、アン!?今私は君たちのために頑張っているところなんだがね?」  少女が諦めずに虚空を叩き続けていると、虚空の一部が裂けるように歪み、中から浮遊生物、エリザが現れた。 「あ、あのねエリザ。怒らないで聞いてくれる?」 「今の私には君に勝てるほどの力はないだろう」  呆れるように首を振る浮遊生物は、次の一言で見たことがないほどに慌てふためくことになった。 「いつきちゃんの記憶をね、ふういんしちゃったのね、………多分、私なの」
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