約束は遠い夏の日

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「解除手段が見つかったよ」  その後、もう一度出直してきた浮遊生物はまだ笑いを堪えるかのように体を震わせていた。 「…どうしたらいいの!?」  少女が待ち切れないと言わんばかりに浮遊生物、エリザに飛びついた。  この魔法をかけた犯人が彼女自身だということは判明したがどうやら彼女は解除方法を忘れてしまっているらしい。 「約束をした当時の彼女、いつきちゃんの最も望んでいた行動をアンが行うことでこの魔法は解除されるようだよ」 「じゃあ、世界を壊しちゃえばいいんだ!」  少女、アンは善は急げ、とでも言わんばかりに立ち上がり、片手を挙げて何か呪文を詠唱しだした。 「待て待て!そうじゃないんだ!!」  そのアンの姿を見たエリザは大急ぎで触手を伸ばし彼女の詠唱を阻害した。…エリザの行動が早かったおかげでなんとか世界と一緒に生き延びることができた。 「何するの!やめて!」 「それは当時の彼女が一番求めていた行動じゃないんだ!!」 「…え?どうして?」 「私にも分からないが、彼女の魔法についた錠前…のような物には世界を壊すという鍵の形は合わないんだよ」 「じゃあ…私、どうしたらいいの…!?」  …アンの瞳が絶望に染まる。  アンは自分の中の不安を否定するかのようにエリザに掴みかかった。 「ちゃんと錠前の方も!!見てきてるよ!!だから!!揺さぶるのはやめてくれ!!壊れる!!壊れる!!通信障害にも繋がる!!」  エリザの悲痛な叫び声はもはや今のアンには届かなかったようで彼女が浮遊生物を手放すことはなかった。 「楽しくて嬉しいこと!!それをしていると!!彼女は1番そう感じるらしい!!」  その言葉を最後に、浮遊生物からブツリ、と短い機械音が響いたあと浮遊生物は微塵も動かなくなった。 「1番楽しくて、嬉しいこと…?いつきちゃんそれって何?」 「さ、さぁ…なんだろう」  あまりにも突拍子のない話題で思わず私は口ごもってしまった。  楽しくて嬉しいこと…、私は昔の記憶はおぼろげで分からず、昔から続けてきた趣味もない…なんなら最近ともなるともっと酷い有様で…。何一つ、手がかりさえ思いつかなかったからだ。 「なら、探しに行けばいいさ」  亜空間の切れ目から新たな浮遊生物が這いずり出してきた。 「でも、私バイトがあるし、夏期講習も取ってるし…」 「毎日じゃなくてもいいじゃないか、週に1日でも月に1日でも」 「いつきちゃん…」  2方向からの強い圧力、本当はそこまで忙しくないこともあり私はそんな、人?とつるむことが嫌だとは言い切れなかった。 「じゃあ…、日曜日だけですよ」
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