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アンとエリザと約束をしてからはや一ヶ月と数週間が過ぎた。
毎日の照りつけるような猛暑は少し和らぎ、夜には心地の良い風が吹き始める季節になった。
しかし残念なことに、あれから毎週の日曜日と暇な日に幼いころの私が1番楽しくて嬉しい、と感じたことはなんだったのか探していたが、結局見つけることは出来なかった。
「いつきちゃん!今日はお祭りだよ!早く行こうよ!」
「お月見、とは何をするんだい?」
「きっと…月を見るんだよ!だから嬉しくて楽しいかもしれないよ!」
「そうだったとしたら幼い頃の君たちは随分と渋い趣味をしているね」
でも、一つ発見したことがある。人と過ごす時間は以外と楽しいということだ。例えば、以前の私ならば面倒くさくて今日みたいなお祭りにも絶対に参加しなかっただろう。
人というのは以外と短時間で変わるものだ。
「こんな時間がずっと続けばいいのにな…」
つい、胸のうちに秘めていたはずの言葉が漏れてしまった。自分で自分の言った言葉に驚き、辺りを見回す。
「ならずっと続ける?ねえ、エリザどうしたらこの時間をずっと続けられる?」
どうやら、独り言は聞かれていたようだ。恥ずかしさのあまり耳が熱くなるのを感じる。
「そうだなぁ…流石に時間操作は私達の技術では不可能だし記憶操作はこの魔法の解除に悪影響を与えかねん、毎年こんな風に過ごすぐらいのことしか思いつかないな」
「えー、そんなことしかないの?」
「…毎年、行ってくれるの?」
「…もちろんだよ?いつきちゃんが望むなら、ずっと私達いつきちゃんと一緒にいるよ!」
その言葉を聞いた瞬間、パキリ、パキリ、と私の体の中から音が響いた。
パキリ、パキリ、その音が増していくのと同時に私の両目からとめどなく涙が溢れてくる。
「どうしたの!?いつきちゃん!!」
「…!!離れろアン、悪影響を与えるやもしれゆ、今彼女の中の魔法が壊れている!!」
必死に駆け寄ろうとする少女を抱き込むようにして抑える浮遊生物の姿が歪んで見える。
あぁ、あぁ、どうして私はあの時素直に言葉を伝えれなかったのだろうか。
そのせいで、どれだけアンを苦しめたのだろうか。
「ごめんなさい、ごめんなさい、アン」
いくら謝罪しても謝りきれないその罪の重さに、ずっと私を守るために戦ってくれたアンへの思いに、私は押しつぶされてしまいそうになった。
「いいよ、いいんだよ?いつきちゃんが私のお友達に戻ってくれるなら、私の今までの行い全部が報われるんだから」
目の前にしゃがみ込み、私を抱きしめるアンは、その姿よりもずっと大きく、頼もしく見えた。
そして、私達は次は、これからはずっと離れないことを月に誓うために、細い月明かりが何本も差し込む廊下で口付けをした。
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