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「マンダレアンの日本人学校は、俺もよく知ってる。君はあそこの生徒なんだな」  男は両腕を組み、書類に視線を落とした。丸っこくて踊るような独特のミャンガラマ文字と僕の顔写真が見えた。どこからか送られてきたファックスのようだった。 「はい」  僕は頷いた。 「しかし、マンダレアンはここから100キロ離れてる。まあ、たしかにこのパウェンは観光地だから遊びにくるのはわかるが、この地区がどんな場所だか知らないわけじゃあるまい。俺は好奇心が強い。いいとこの坊ちゃんが、なぜテロリストのいるパウェンにいるのか、説明できるか」  僕は、できますと答えた。  親父の仕事が関係していた。 親父は、日本の大手スーパー<プラネタリー&アイ>ホールディングスの海外新店開発プロジェクトのミャンガラマ総括マネージャーしている。新店準備室の本部が首都マンダレアンにあって、僕たち家族はマンダレアンの社宅マンションで生活していた。  僕がこの国にやって来たのは今から四年前。  四年経ってもまだオープンには漕ぎつけておらず、ようやく基礎工事が始まったばかりだった。  ――新店開発には想定外の苦労があるんだよ。それを乗り越えてこそ、道を切り開いてきた意味がある。少数派民族とのいさかいはあっても、それでも、ミャンガラマは未来の明るい国なんだ―― それは、親父の口癖になっていた。  僕たちの日本人学校では、毎年、お盆の時期になると地元学校や孤児院の子供たちとのとの交流会があった。校庭には盆踊り用の櫓が組まれ、櫓の周りには綿あめ、たこ焼き、焼きそば、ヨーヨー、ジュースやアイスの屋台ができる(作り手は教職員、生徒の両親、大使館の職員)楽しいイベント広場になった。  パルジェは孤児院の子供だった。彼は、情勢が落ち着きつつあるクアラン州パウェン地区の出身だったが、内戦で両親を亡くしていた。パルジェとは、盆踊りを通じて仲良くなった。 「平和そのものだな。なのに、どうしてこんな危険な所へ来た?」  半袖半ズボンの係官は興味を持った様子だった。 「パウェンには、今度、新しいスーパーができるから、どんな店ができるのか見たくなったんです。それと河原の橄欖石(かんらんせき)拾い」 「なるほど。親父さんの仕事の成果が見たかったわけだ。カンラン石は宝石(ペリドット)の原石だからな。カネ儲けでも企んだか」  本当の理由はそれだけじゃなかった。だけど、それを係官に話すわけにはいかない。  
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