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話せば、僕は反乱者の烙印を押されるだろう。それはクアラン解放軍に肩入れしていることを意味した。そうなれば、僕が日本人の子供であろうとなかろうと、スパイ容疑で厳しい尋問を受けることになる。僕は日本人の消息不明者になり、辿るツテも消えてしまうだろう。日本大使館や外務省の邦人テロ対策室の問い合わせに、ミャンガラマ軍が応じることもない。それがミャンガラマの裏の顔でもあった。だからこそ僕は好奇心旺盛の子供を装った。
しかし、係官は疑り深い目つきで僕を眺めた。僕が何かを隠していることを見抜いたような、そんな目つきだ。
「そろそろ迎えのヘリが来る頃だな」彼は視線を天井へわざとらしく逸らした。「君はツイてる。もし心にしまってることがあるのなら、それは口にしないことだ。そうしないと、君のご両親やスーパーの出店計画が困ったことになるぞ」
ヘリのローター音が近づいてくると、外に出るように言われた。
建物の玄関先で没収された所持品が返却された。
「ケータイは押収する。写真が保存されていたからな」
ミャンガラマでは観光写真撮影でも規制があるのだ。軍基地周辺とか鉄橋などの鉄道施設、港湾などの撮影は禁止されている。
ヘリにはパイロットのほかに母と大使館ネームプレートを付けた男性職員が乗っていた。
安堵の表情を浮かべる職員、泣きだす母親を冷めた目で眺める自分がいた。
僕はシートベルトを締めながら言った。
「友達が大怪我してて、死にそうなんだ。場所は知ってるよ。ヘリならそこに着陸できるよね」
パルジェを助けられる最後のチャンスだと思った。大都市マンダレアンに帰れば、設備の整った病院がたくさんある。
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