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損をして、徳を得る
………ウサギ追いし、かの山。
………小鮒釣りし、かの川。
………夢は今も巡りて。
…………………忘れ難き、ふ・る・さ・と
駅のホームに到着したのは、その年の4月1日の午後8時を過ぎた頃だった。中学を卒業して以来、30年振りの帰省だったのかも知れないけれど………。
小学2年生になった頃からボクはイジメに遭う様になり………。学校でテストを返された時などの際には、クラスメイトの中の数人の男子が連れ立って、僕の答案用紙を取り上げたかと思うと、赤のサインペンで100と書かれた紙切れをクシャクシャに丸めてキャッチボールを始める。やがてはその百点の答案用紙を破り散らして、ボクに投げ付けて、そそくさと去って行く。
地獄の様な日々が続いていた、遠き日の少年時代。それでも、1番恐怖してしまっていたのは、学校での給食の時間。
………確かに、人間の子供の頃には、食べるモノの中でも、好き嫌いはあるらしいのかも知れないけれど、それでも、残して食べずに捨ててしまうだけなら良いのだが。いじめっ子の二人は、その残飯をボクの目前に押し付けて、食べる様に強要を始めた。
………………………………………。。。
怪訝そうな表情を浮かべながら、思わずボクは首を横に振るのだが、その様な時は、決まってそのふたりはボクの両腕を掴んで、互いの手指の爪を逆立てて、血が滲む程までに抓繰り回す。思わず、ボクは苦悶の表情でふたりを凝視するのだけれど、あからさまにそのふたりは更に手指に力を込める。
教室の中のその周りには、その他大勢の生徒はいるにも関わらず、誰ひとりとして、その頃のボクの身の上に降り掛かっている厄災に気付く素振りも見せなかった。たったひとりだけその傍らで成り行きを見つめている女の子の姿がひとつきり。
彼女の名は、太居 美穂。
今でも忘れはしない、子供の頃のたったひとりきりの友達。
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