ちっぽけな存在

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 一時間くらい、白いワンピースの彼女が指し示す辺りを手分けをして探していたが、目に付くものは貝殻や小さなプラスチックのゴミくらいで、それらしいものは全く見つからなかった。  そもそも、砂浜に落ちているゴミの量が、極端に少ない。  見渡す限り、奇麗な浜が続いている。  だが、俺がいた7年前は、粗大ゴミのような大きな物から細々した物まで、様々なゴミが散乱していて劣悪な環境だったはず。  砂浜に打ち上げられた漂流物もそうだが、それ以上に、ここを訪れた観光客の廃棄したゴミが大きな問題となっていた。  少しでも地元の海と浜を守ろうと自発的に始めた、この地域のサーファーたちのボランティア活動に、その頃俺も参加していた。  たぶん、その活動が広がったおかげで、こうして安心して裸足で歩けるのだろう。 「もうすぐ、夕立が来る」 「えっ、雨が?」 「ほら。風の向きと温度が変わった」  彼女は風を受けるように、空に手をかざす。  たしかに、彼女の言う通り、さっきよりもいくらか冷たい風が頬をかすめていった。  以前、渚に、「波乗りにとって天候を知ることは、とっても大切なことなんだからね」と言われて、半ば強制的に、天気図の読み方を一緒に学んだことがあったので、天候の変化についても、多少は分かる。  だが、今朝の天気予報では、雨が降るなんて言っていなかったし、背の高い積乱雲やベール状のおぼろ雲も、ここからは見えない。  だから、俺の見立てが確かならば、雨が降ることはないはずなんだが。  しかし、そのとき遠くの方から、ゴゴゴ、という微かな音が聴こえてくる。  注意深く、その音に耳を澄ます。  まるで、低く唸る地鳴りのような音。 ――まさか。海鳴りだなんて。  海鳴りは、天候悪化の前触れのはず。  すると、見る見るうちに、空が表情を変えるように、水の張ったバケツに黒い絵の具を数滴垂らしたような雨雲が、上空に瞬く間に広がっていった。   映像を早送りしたかのようにうごめく雲の動きを見上げて、その様子をうかがう。
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