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店の中をグルリと見回してみたが、やはり誰の姿もない。店員すらもいなかった。
「営業中」の札は掛かっていたんだから、営業時間外だなんてことはないはず。
だとしたら、ディナーの時間前に、店員は奥で休憩でも取っているのだろうか。
「すみませ~ん!」
奥に向かって、声を掛けてみる。
するとすぐに、「はーい、少々お待ちくださーい」と、元気な女性の声が返ってきた。
「良かった。やってるみたいだね」
何気なく隣の彼女と視線を交わすと、今度は、ごく自然に微笑みを返してくれる。
その打ち解けたような笑顔に、胸の高鳴りを感じている自分に、ふと気付く。
段々と傾き始めた日差しが細く差し込む、明るい雰囲気の店内。
二階建ての建物の上部分は、住居に使われているようだから、たぶん、この店は家族経営なのかもしれない。
駅からは少し離れているけど、サーフィンに訪れた客には、好都合の場所にある。
常連客のニーズには合っているのだろう。
天井まで届きそうな、ヤシの観葉植物。
壁に飾られた、ロングサーフボード。
「ザ・ビーチ・ボーイズ」のBGM。
サーフボードのワックスの匂いさえ感じられるような店内。
インテリアはオーナーの趣味だろうか。
エメラルドグリーンとホワイトの内装は、女子サーファー受けが良さそう。
原宿で見掛けたパンケーキ屋の外観みたいな色合いをしている。
こんなに可愛らしい雰囲気の店だから、オーナーはきっと女性なんだろうと、勝手に想像していたけど、キッチンの奥から顔を出して、「いらっしゃい」と、声を掛けたのは、肌をこんがりと焼いた長身の男性だった。
背の高いコック帽をかぶっている。
彼がオーナーなのだろうか。
潮焼けして色が薄くなった髪色と、首元にくっきりと残るウェットスーツ焼け。
まさに、サーフィンをこよなく愛する、海の男といった風貌だった。
たしかに女性のオーナーよりも、彼の方が、メニューのボリュームにも納得がいく。
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