洋食店のソーダ水

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 旨味(うまみ)を含んだ湯気が、鉄板で焼かれたハンバーグから、モワモワと立ち上る。  まさに「看板に偽りなし」。  これで普通盛りだっていうから驚きだ。  この量のハンバーグを食べ切れる女性はいるのだろうか。  まぁ、食べ盛りの若いサーファーにしたらなんてことない量だろう。俺もあと10歳若ければ大盛りを頼んでいたかもしれない。  付け合せの皮付きポテトや、小さな森のようにこんもりと盛り付けられたブロッコリーからも、もうもうと湯気が上がる。  この時点で俺の猫舌は、すでに不戦敗が決定していた。  なんだかこれって、恋が実るまでのドキドキに似ていないか。相手を思いながら待つ時間も、楽しみの一つになるような。 ――なんてことを考えながら待つのも、案外嫌いじゃない。  ハンバーグが冷めるまで、彼女とサーフィンについてはもちろん、お互いの好きな音楽や食べ物の話をしていた。  最初は無口だと思っていたけれど、くだけた会話もできる子だと分かって安心した。  たぶん、人見知りするタイプなんだろう。 ―― そんな性格まで、渚と同じ。  心を開くまでに、人よりも時間がかかる。  俺たちは食事を終えると、再び砂浜に戻り、日没までのわずかな時間をイヤリング探しに当てることにした。猶予は30分。  探しながらも、またサーフィンの話をした。  彼女が心を開き始めているのが、会話の中からひしひしと伝わってくる。  結局イヤリングは見つからなかったが、偶然出会ったレイカに、興味を持ち始めている自分に気付けたことは、大きな収穫だった。  渚がいなくなってからというもの、人というもの自体に興味がなくなっていた。仕事以外で接することも避けていたし、人の温もりも長いこと欲していなかったのに。
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