オフショアの潮風

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 今もこの腕に、レイカを抱き締めたときの香りと、体の柔らかい感触が残っている。  洗い終わった洗濯物を干しながら、またその夢の中の感触を思い出していた。  渚ではなく、知り合ったばかりのレイカの夢を見た意味を、俺は考えていた――。  後ろめたさが、まだ胸の奥を刺激する。  渚の記憶が薄れて行くことへの罪悪感。  これまでは、残された俺が幸せになってはいけないんだと思い込んでいた。  サーフィンに対して、あんなに傲慢(ごうまん)だった俺が生き残って、真面目にサーフィンを愛していた渚が、なぜ死ななければならなかったのか。  一生解けないその問題を考え続けることが、自分の存在意義だと思おうとした。  そうでなければ、渚のいないこの世界に生き続けてはいられなかった。  でもその考えすら、自分の都合に過ぎない。  足枷(あしかせ)をはめていると意識することで、渚を失くした痛みを忘れようとしているだけで。  また自分の傲慢(ごうまん)さに辟易とする。  己のドロドロとした黒い部分に目を背けても、さらに次の黒い部分が見えてくる。  そんな永遠に出口の見えない日々から、本当はもっと早く逃げ出したかったんだ。
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