オフショアの潮風

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*  レイカとの約束の朝。  この間の夢の余韻が、まだ周囲をユラユラと漂い続けているのを感じる。  闇夜を縫って進む、海沿いの道路。  等間隔に続く街灯の明かり。  休日の早朝に、この国道を通る車の目的地は、大抵がこの近辺の海岸と決まっていた。  今まさに前を走る、大型バンと、ステーションワゴンも、インターを降りてからずっと、同じ方向へと向かっている。  彼らはどこの波のポイントへ、行こうとしているのだろうか。  この辺りの海岸は、南北十数キロに渡って長く続く。したがって、波のポイントも多い。  みんなそれぞれ自分のお気に入りのポイントがいくつかあって、当日の天候やコンディションで、入る海岸を決めている。  昨日、久しぶりに、昔使っていたサーフボードにワックスをかけた。  ワックスをしっかりとかけないと、無駄な力が入って、確実なボードコントロールができず、パフォーマンスが低下する。  だから前もって、自宅でベースコートを塗っておき、海に入る直前にその上からトップコートを塗る必要がある。  玄関横の納戸に長い間眠っていたボードカバーを開けると、一番のお気に入りだったショートボードが顔を出した。  7年前に他のは手放したけど、コイツだけはどうしても手元に置いておきたかった。 「⋯⋯ごめんな。ずいぶん長いこと使ってあげられなくて」  久々の対面に目頭が熱くなる。  手のひらで優しく撫でて感触を確かめながら、久々の再会の喜びを分かち合った。  幸いなことに、大きな劣化はなかった。  長く使っていなかったにしては、コンディションが思ったほど悪くはない。  ベランダで日差しを浴びさせると、キラキラと反射して喜んでいるようにも見えた。
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